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Ladies and Gentlemen dream
君に好きだと伝えたい
癒しの国ライフ。窓からは、春の日差しの下におだやかに広がる家並みを見ることができた。ここは、与作の再生所の、こじんまりとした一室。

窓の内側に置かれた安楽椅子は、さっきからゆっくりとゆれつづけていた。その椅子にかけた女性が、退屈そうな表情でゆらせているのだ。ナマエはぼんやりと外を眺める。時々、傍にある机の上の雑誌のページをめくる。その音は部屋の中の、平穏さの密度を高める手伝いをしていた。

突然、ナマエは口から苦しそうなうめき声をもらし、胸を押さえて立ち上がる。

いつもの発作がまた彼女をおそったのだ。ナマエはよろめきながら、机に手を伸ばした。そして、そこからある紙袋のなかの一包みをとりだし、ふるえる手でなんとか包みをあけ、その灰色の粉薬をコップの水とともに飲んだ。

「苦しかった。いやな病気を持ったなー。それにしても、この薬はじつによくきく」

ナマエはほっとした表情になってつぶやいた。これには強力な劇薬が配合されている。時々彼女の身体を蝕む発作を、ぴたりと押さえてくれるのだ。ナマエはその袋の中をのぞいた。

「うっわ。あと一服しか残ってないよ。あとで、与作さんのところにいって、また調合してもらわなくては」
ナマエは、また安楽椅子にかけた。部屋の中に、静けさがが戻る。ナマエは退屈な気分がみなぎりはじめた。彼女はラジオをつけ、ジャズの曲に聴き入った。時が流れ、日が傾きかけた。ドアにノックの音がし、単調さが終わった。

「どなた?」
ナマエの問に、ドアの外から男の声が答えてきた。

「ほら。お前の言う通りに、花を届けに来たぞ」

「ああ、そっか。今日は花を取り替える日か。どうぞ」

ナマエは与作に頼んで、定期的に花を届けて欲しいとお願いしたのだ。ラジオを消す。
ドアが開き、花を抱えた与作が入って来た。美しい色彩と香りが室内にたちこめる。

「じゃ。ここにおいとくぞ。薬はほどほどにな」

与作は傍の台の上に花をおき、出て行こうとする。それを見つめていたナマエは、ある思いつきに目を輝かせ、口元を緩める。そして、彼に呼びかけた。

「与作さん! ちょっとお話したいことが」

「あ。なんだ?」
と与作は不審そうにまばたきをする。

「ずっと聞きたかったの。何回も貴方を見ているうちに、わたしの目に焼き付いて離れない。与作さんが忘れられなくなってしまったのです」

「はっ。冗談を」

「冗談じゃないです! 本気ですよ」
ナマエは、真面目な顔を作った。本心はどうであれ。持て余した退屈を、彼をからかうことでまぎらわそうとした。言葉はなめらかに口から流出した。

「随分と。突然すぎやしねーか」

「告白は、いつも突然に。信じてないと思うけど私は重いつめてるんだから」

ナマエは酔っていた。自分の言葉に。演技の上手さに。更にその酔いを高めることにした。机の上にある紙袋を取って、こう言った。

「じゃーん。私はこんな薬を持っているんです。貴方からNOという拒絶の言葉を聞いたら、すぐに飲むために」ナマエは中から一袋だし、傍にある熱帯魚がいる水槽の中に、ほんの少し落とした。熱帯魚はたちまち苦しそうにもがきはじめた。与作はそれをじっと見つめていたが、ナマエに視線を戻した。
「返答を」
彼女はにこにこしている。与作はだまったままだ。
「そっか。残念。私はお気に召さなかったのですね。では、水をくんできます」
ナマエは台所に行った。彼は何故黙ったままなのかとナマエはふと思った、その時発作に襲われた。一刻も早く薬を飲まないといけない。コップを手に持ち、苦しそうな表情で帰って来たナマエを与作はただ黙りと見るだけ。
つまらない男。とナマエは思う。でも今はそんなことはどうでもいい。口を開け、薬を飲み、水で一気に飲み干した。しかしおさまるはずの発作はなおらない。ナマエは胸を押さえ、床に倒れた。与作は身をかがめナマエをそっと抱き起こし、うれしそうな表情し微笑んだ。
「ほんとに飲むとはな。ワシをそんな風に思ってくれている女性がいたとは。これはうっかり。ワシもナマエが好きになったぜ。好きだ。だがよ、苦しむことはない。さっき、その中身はいつも持っている消化薬とすりかえておいたのだから」


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